2018-11

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

向日葵

 ロマーニャは温暖で天候が好い日も多く、501JFW基地周辺でも彼方此方に向日葵の花が咲いていた。
 501JFWの中で最も階級が低い宮藤芳佳は、いや階級とは関係なく多分その性格から、いつも基地内の雑用を率先しておこなっていた。今日も、リーネが摘んでくれた向日葵の花を台所の花瓶に生けている。
 そこに、フラフラしながら、エーリカ・ハルトマンが入ってきた。
「みーやーふーじぃ、お腹減った~。朝ご飯まだ残ってる?」
「ハルトマンさん、おは…じゃない、もうこんにちは、ですよ!」
「えぇ~、そうなの? あ、それ向日葵だ」
「はい! 綺麗でしょー!」
「フーン。じゃあ、お昼ご飯まで、もう一眠り~」
 そう言って、さっさと部屋に戻ってしまった。
「あ、あれ、行っちゃった……。ハルトマンさん、あんまり向日葵好きじゃないのかなぁ」

*     *     *

 一九四〇年、カールスラントの首都であるベルリン陥落後、カールスラントからの大規模撤退が開始された。国家元首たるカールスラント皇帝以下、大地に根ざして働いていた農民に至るまで、生きとし生けるものは、異形の存在ネウロイの侵略を避けるため、愛すべき祖国から離れることを余儀なくされた。
 通常兵器だけでは倒すことが困難で、人類の科学を遙かに凌駕した攻撃をおこなうネウロイ。その力に抗う事が出来る存在は、魔法の力を駆使することが出来る魔女だけである。
 それ故、魔女達は撤退作戦において、常に最後尾を守り、誰よりも最後まで戦線に残らなくてはならなかった。
 カールスラント西部、ボーフムでの撤退戦においても、やはり魔女達が殿としてこの地に残っていた。ボーフム市庁舎には仮司令部が設置され、残された魔女と彼女達を補佐する人々が、部隊の垣根を越えて撤退作戦に従事していた。

 仮司令部に置かれた大きな机には、ボーフム周辺の地図が広げられていた。その地図を一人の魔女がボンヤリと眺めている。
「わぁ、ねえねえ、ここってさ、向日葵でいっぱいなんだよね!」
 その金髪碧眼の魔女は、地図の一角を指さして、心に響くような声を発した。
「そうよ。そろそろ満開の時期ね。大地が一面、向日葵の花で覆われて、とっても綺麗なの」
 その後ろに立っていたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは、笑顔で答える。
「黄色い絨毯みたいなのかな? 見たいな~! ね、トゥルーデ?」
「ああ、そうだな」
 地図を見てはしゃいでいるハルトマンの言葉に、バルクホルンは上の空で答えた。
「そうね、きっといずれ私達も偵察の任務で、その辺りを飛ぶこともあると思うわ。その時を楽しみにね」
「ウン!」
 ハルトマンとミーナのやりとりが終わるのを待って、バルクホルンが口を開く。
「ミーナ、私は先に休むよ。ハルトマンも……いや、何でもない」
 そう、何かを言いかけたまま、バルクホルンはあてがわれた寝室に歩いて行った。

*     *     *

 それから三日後、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、エーリカ・ハルトマン、ゲルトルート・バルクホルンの三人は、ボーフム南郊への偵察任務に就くことになった。
 ボーフムを飛びだってから幾ばくも経たないうちに、壮大な向日葵畑は彼女達の目に映った。
「ウワァ……ホントに真っ黄色! こんなに遠くからでもよく見えるね」
「そうよ。もう少し低空を飛びましょうか」
「ウン!」
「トゥルーデもそれでいい?」
「……ああ、そうだな」
 一人、少し前を飛んでいるバルクホルンは、ミーナの提案を受け入れて、高度を下げた。 次第に鮮烈な黄色が、視界一杯広がっていく。
 ハルトマンは速度を上げて、バルクホルンに並んだ。
「ねえ、トゥルーデ、とっても綺麗だね」
「……ん、ああ、そうだな」
 バルクホルンは、ハルトマンの呼びかけに対しても振り向くことなく、厳しい表情のまま前を向いて答えた。

「どう、エーリカ?」
 バルクホルンとのやり取りを終えて、真下の景色をボンヤリと見ているハルトマンに対して、ミーナが声を掛けた。
「うーん」
 先ほどまでのはしゃぎ様とはうってかわって、物足りなそうにミーナの方を向いた。
「トゥルーデが心配かしら?」
「ううん、思ったほどじゃなかっただけ」
「フフ、もう」
 年少のハルトマンの様子を見て、ミーナは優しく微笑んだ。
 眼下には、太陽の光を受けて黄色く輝く向日葵の花が広がっている。その上を三人の魔女が無言で飛んでいた。
 風を切る音
 レシプロエンジンの音
 プロペラが空気を裂く音
 周囲一帯に彼女達が発する音だけが響いていた。人間が空を飛ぶ時は、たとえ魔女であっても音を立てなくてはならない。彼女達にとっては、歩くと足音がするのと同じだった。
 すると、インカムから耳慣れない美しい声が聞こえてきた。いつもの連絡事項や命令とは違った無機質なものではなくて、胸を打つような美しい声。
 ゲルトルート・バルクホルンとエーリカ・ハルトマンは、インカムを通じてミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの歌声を聞き取った。
 その歌は、最近、整備兵達の中で人気を博している、リリー・マルレーンという曲だ。飛び立つ魔女を待つ切なさを歌っているその歌は、ラジオで何度もリクエストされていて、もしかしたら世界的ヒット曲になるかもしれない。
 ハルトマンはその美しい歌声に惹かれて、自然と目を閉じて耳を澄ませた。飛行速度を少し落として、ミーナと並ぼうとする。その時、バルクホルンはむしろ速度を上げて、上昇を始めた。
「あ、あれ、トゥルーデ?」
 バルクホルンの変化に気がついて、ハルトマンは思わず左手を伸ばした。バルクホルンは更に上昇して行く。ハルトマンは後を追いかけようと速度を上げようとするが、追いかけることが出来なかった。
 バルクホルンが上昇する瞬間、その瞳から涙を流していた様な気がした。
「……」
 リリー・マルレーンを歌い終わると、ミーナはハルトマンと並んだ。
「いいのよ、エーリカ。今はもう十分よ」
「……」
「私達にクリスの代わりは出来ないわ。でもね、私達に出来る事ってあると思うの。それは少しずつ、本当に少しずつ積み重ねていくことなのよ」
 徐々に離れていくバルクホルンの機影を、二人の魔女は並んで見つめていた。

*     *     *

 ロマーニャ基地周辺で、海岸付近を偵察していたペリーヌと宮藤の部隊と、陸地方面の偵察を終えたバルクホルン、ハルトマンの部隊が合流を果たした。
 特に異常がないことを確認し終えると、皆和やかに雑談をしながら基地への帰途に就く。その最中、眼下の景色を見て、宮藤が声を上げた。
「うわぁ、向日葵畑ですよー! 綺麗だなぁ」
「ほう、宮藤は向日葵が珍しいのか?」
 合流したバルクホルンが、はしゃいでいる宮藤を見て話しかける。
「あ、いえ! でも、あんなに沢山咲いているのは初めて見ました」
「ほう、じゃあカールスラントに来たら、もっと驚くだろうな」
「……トゥルーデ?」
 少し後ろを飛んでいたハルトマンは、バルクホルンの発言に、ほんの少しだけ驚きの表情を浮かべた。
「え、そうなんですか??」
「ああ。カールスラントにはな、見渡す限り一面に広がる向日葵畑があるんだ」
 バルクホルンは瞳を閉じて、一呼吸置く。
「それは……それは本当に美しいんだ。そうだな、宮藤にも見せてやりたいな」
 とても穏やかな表情で、バルクホルンが微笑んだ。
「えぇー、すごいです! 行ってみたいです!!」
 宮藤は、バルクホルンの言葉に瞳を輝かせて思いっきり頷いた。
「じゃあさ、みんなで一緒に行こうよ! ね、トゥルーデ!」
 いつの間にか、宮藤たちの隣を飛んでいるハルトマンは、満面の笑顔だ。
「そうだな。皆で観に行こうか」
「あれ、でも……あの地域は、まだネウロイが支配している地域では……」
 思ったことを口にしたペリーヌは、言い終わらないうちに口をつぐんだ。
「うむ。今日の約束を守るためにも、必ずネウロイを排除するさ」
「そーだよ、そうなったらさ、みんながどこにいたって、絶対呼ぶからね!」
 ペリーヌの言葉に、カールスラント出身の二人は力強く宣言する。
「その必要は無いかも知れませんわよ」
「えー、どうしてさ」
「ヴェネツィアを解放した後、私達501で、カールスラント解放もやってしまえばよろしいんですわ」
 バルクホルン達の心強い言葉に、普段は冷静なペリーヌも、思わず熱くなっていた。
「そうですよ! みんなで頑張りましょう!!」
 芳佳も拳を握りながら声を上げる。
「ああ、そうだな。でも、その前に、まずはヴェネツィアから叩き出さんとな」
「はい!」

*     *     *

「みーやーふーじ!」
 基地が見えてきた頃、不意にハルトマンが宮藤に抱きついてきた。驚いた宮藤は思わず体勢を崩しそうになる。
「わぁあああ、どうしたんですか、ハルトマンさん!」
「ありがとう、みやふじ」
「?? えっと、何がですか?」
「なーんでもない!」
「もう、ハルトマンさんは!」
「ニシシシッ」
 抱きついた宮藤から離れながら、ハルトマンは笑顔で続けた。
「台所の向日葵もとっても綺麗だったよ! 実は向日葵の花、大好きなんだ♪」


〈了〉

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://monokakitsuratsura.blog.fc2.com/tb.php/8-bc5f34c3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

夏コミ «  | BLOG TOP |  » 手紙〈II〉

プロフィール

おおぬき

Author:おおぬき
ストライクウィッチーズ大好きです。
エーリカは天使です。

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

カテゴリ

未分類 (0)
お絵かき (0)
小話 (5)
日記 (38)
その他 (1)

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。