2018-11

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手紙〈II〉

 ハルトマンの質問を逃れる為に部屋を出たバルクホルンは、閉めた扉に寄りかかりながら深く息を吐いた。

――全く、……なんであいつはいきなりあんなことを言うんだ!
――ゆっくりと落ち着いて居ることが出来ないのか?

 そう思いつつ歩き出した時、もう一度、改めて同じ問いを繰り返した。

――どうして突然あんなことを言いだしたんだ?


 頭に上っていた血がゆっくりと引いていく。
 祖国カールスラントから、長く辛い撤退戦、そして、501FJWでのブリタニア防衛戦。その後も、今に至るまで、ミーナを加えた3人は、共に戦ってきた。一時期、ミーナとバルクホルンは悲劇に見舞われて、バルクホルン自身は、我を失いかけたこともあった。勿論、エーリカ・ハルトマンだって、家族離ればなれになって遠く異国で戦わなくてはならない状況を考えれば、戦禍に見舞われているのは確かである。しかし、彼女が弱音を吐いたり、挫けそうになったりした所を一度も見たことがない。そのことを思うと、あの笑顔で突然問いかけたことが、とても重要な何かのサインのような気がしてくる。

――全く分からん
――もしかしたら、あの手紙で望郷の念が出たのか?

 あごに手を添えつつ、ウーンと唸りながら廊下を歩く。どうも分からない。ぐるぐると思考が空回りし始めた。こんなに長く一緒に居るというのに、あの少女はどこかつかみどころがないのだ。
 しかも、家族以外の人間から面と向かって「好きだ」と言われたことがなかったバルクホルンにとって、あの一言を思い出すと、また頭に血が上って全部真っ白になってしまう。

「くかーぁ……、全く、ややこしいことを言いおって!」

*     *     *

 そんな様子を、少し離れたところを歩いている少女が目ざとく発見した。褐色で健康的な肌と、太陽の恵みを受けて艶々と黒く光る髪を持つ少女、フランチェスカ・ルッキーニ少尉だ。
 勿論、その隣には、華やかな容姿と女性らしい曲線美で見る人を魅了する、シャーロット・E・イェーガー大尉が並んで歩いている。二人は、いつも通りハンガーに向かおうとしている最中だった。
「ねえ、シャーリー、さっきからバルクホルンは何してるのかな?」
 ルッキーニが指さす方向を見ると、バルクホルンがウンウン唸ったり、真っ赤になって頭を抱えている。
 面白い事や楽しいことに目がないシャーリーにとって、堅物で素直じゃない同僚が時々見せる滑稽な姿は、もうご馳走以外のなにものでもない。
「ハハハ、なんだありゃ! なんか面白そうだぞ、ちょっとこっち来いルッキーニ」
 そんなバルクホルンを遠目で見るために、相棒であるルッキーニを呼び寄せて、さっと木陰に隠れた。
 まさか自分の苦悩している姿を誰かに見られているなどと思いもよらないバルクホルンは、思考の渦に飲み込まれつつも、何とも表現しようがないこの感情をもてあまして、周囲など全く顧みることなく歩き続けた。その結果、足下すらおろそかになってしまい、廊下の階段を踏み外してしまった。

「あ、危ない!」
 思わず、ルッキーニが声を上げて立ち上がった。
 その声が響き渡るのとほぼ同時に、隣にいたはずのシャーリーが、転倒しそうになっているバルクホルンを抱きかかえていた。
 シャーリーの使い魔であるウサギの耳と尻尾が、フッと彼女の元に収まった。
「ふぅ……間に合った。大丈夫か?」
「す、すまん、って、なぜお前がここにっ?!」
「え、あー、ほら、丁度、ハンガーに行く途中でさ、な、ルッキーニ?」
 名前を呼ばれたルッキーニは、木陰からひょいと顔を出した。
「うん! だって、バルクホルンがさっきから面白いんだもん、ねぇ、シャーリー♪」
「お前達、ずっと見ていたのか?!」
 シャーリーの腕の中に抱かれたバルクホルンは、即座に立ち上がった。勿論、顔は真っ赤になっている。
「ハハハ、まあそういうこと。で、一体どうしたんだ?」
 シャーリーは頭をかきつつ、のぞき見をしていたことを咎められる前に、話を逸らした。
「……」
 バルクホルンは、自分が悩んだり恥ずかしがっていたりした姿を見られてしまったことに二重の恥ずかしさを覚えつつも、自分と対極に居ると思われるこの同僚に、思い切って相談してみたら何か打開策が生まれるかも知れない……と思った。そう決断すると、半分ヤケになって、打ち明けることにした。
「……そうだな、少し相談したいことがあるんだ」
 改まって頼み込む同僚に対して、シャーリーも居住まいを正す。
「……その、出来れば二人で話したいんだが……」
 普段とはかけ離れたバルクホルンの口ぶりに、ただならぬものを感じたシャーリーは、ルッキーニの頭をなでながら、優しく告げた。
「だってさ、ルッキーニ。すまないが、先にハンガーに行っててくれるか?」
「えぇー、私だけ仲間はずれぇ?」
「そうじゃない、大事な話みたいなんだ。もしもおまえに伝えなきゃイケナイことだったら、必ず話すから。な?」
「うにゅぅ……シャーリーがそう言うなら、分かったー」
 そう言って、ルッキーニは手を振りながらバンカーの方に走っていった。

*     *     *

「ほら、二人っきりだぞ。どうしたバルクホルン?」
「……」
 ルッキーニが居なくなったとはいえ、どうやって切り出して良いか、なかなか浮かんでこない。そもそも何を相談したものか、バルクホルン自身もよく分かっていなかった。
 しばしの沈黙を経て、バルクホルンは何とか口を開いた。
「その……、お前はハルトマンのことをどう思う?」
「ん? あのハルトマンか?」
「ああ、そうだ」
「面白いヤツだと思うな。普段は何を考えてるか良く分かんないけど」
「そうか。じゃあ、その……お前は、ハルトマンのことが好きか?」
「ハァ? なんだそりゃ?」
 バルクホルン自身、何を聞いているのか、本格的に分からなくなってきた。
「ああ、そりゃまあ、好きかどうかって言われりゃ、好きってことになるけど……一体、何があったんだよ?」
 バルクホルンは、抑えた口調で、先ほど部屋であったことを、自分の考えを含めつつ、かいつまんで話し始めた。
 その話を聞き終えて、シャーリーは大きく息を吐いた。
「ウーン、そりゃハルトマンがどういうつもりで言ったか分からないけどさ、あまり考えすぎるのって良くないんじゃないか? そういうのって、本人じゃないと分からないしさ~」
「……うむ」
「まずアンタが彼女のことをどう思っているか、それをアンタの言葉で伝えてさ、それから、本人に直接聞いてみりゃいいんじゃねーかなぁ」
「……まあ、それは、そうだが……」
「そうそう、それっきゃないって。戦闘なら即断できるってのに、こういう事になると考え過ぎなんだよ」
「……うぅ」
「それに、こんなことだったら、ルッキーニが居たって良かったじゃんか。アイツはこういうの意外と鋭いんだぞ?」
「……いや、そういう問題ではない。その、ほら、なんだ、こんなこと面と向かって聞ける訳がないではないか」
「へぇ~、私になら良いのか? ニシシッ」
 バルクホルンは、シャーリーから視線を逸らす。
「……と、とはいえ、ルッキーニ少尉には悪いことをしたかも知れないな。後できちんと埋め合わせをせねばならんな」
「大丈夫だって。私が上手いこと話しておくさ」
「そうはいかん、これは私がまいた種だ」
「ハハハハ、もっと肩の力を抜けよな~。ま、そういうところがアンタらしくっていいけどさ」
「わ、笑うな、リベリアン!」
「あぁ、すまんすまん。でも、ホントに。こういう不器用なところ、私は好きだな~♪」
「な、な、なっ何を言う、お前まで!!」
「ほらほら、もう怒ってないで部屋に戻れよ~、ルームメイトが待ってるぞぅ、じゃな~」
 シャーリーは、そう言いながら、手を振ってバンカーの方に歩いて行った。
 バルクホルンは、結局、何が問題で、何に悩んでいたのか良く訳が分からないまま、部屋に戻ることにした。

*     *     *

 バルクホルンは、部屋のドアの前に立って、呼吸を整えた。

――平常心、平常心だ
――私の言葉で、そう私の言葉で伝えればそれで良いんだ

 シャーリーの言葉を思い返しながら、ドアを開けた。部屋の中は、相変わらず下着姿のままのハルトマンが、机の上にある二つの珈琲カップの手前でへにゃりと突っ伏している。
 とりあえず、珈琲が来ていることを確認して、バルクホルンが口を開いた。
「お、宮藤はもう来てくれていたのか」
「うん。珈琲を持って来てくれて、すぐ出て行ったよ。訓練の時間なんだってー。残念だったね!」
「い、いや、別に残念ということはない!」
「もう、長いトイレだったから、待ちくたびれちゃったよ~」
 宮藤が淹れてくれた珈琲を前にして、ハルトマンは少し口を尖らせる。
 とりあえず、席に着く前に言いたいことは済ませてしまおう、そう考えたバルクホルンは、ハルトマンの前に立って話し始めた。
「その、フ、フラウ、私はな、つまり、その、お前は実戦では長機としても僚機としても優秀だし、戦術も良く理解しているし、戦功に執着して視野が狭くなることもないし、その、普段はズボラで朝も起きんし、部屋は散らかし放題だし、悪戯ばかりするし、何を考えているかよく分からん時もあるし、その、でも……」
 やっぱり、何を言っているのか分からなくなってきた。想いを伝えようとしているのに、いつの間にか小言になりつつある。
 言葉に詰まって、どうしようか言いよどんでいると、突然、ハルトマンが抱きついてきた。
「もういいよ、トゥルーデ、ゴメンね、ちょっと意地悪しすぎたかも」
「……、あ、んん?!」
「もう、トゥルーデの気持ちは伝わってるから、大丈夫」
「……」
「でも、久しぶりに聞けたよ、最近、トゥルーデは、私のことフラウって言ってくれないんだもん」
「ん、そうだったか? その……、すまんな」
「さ、飲もうよ、せっかく宮藤が淹れてくれた珈琲が冷めちゃう」
「ああ、そうだな」
 ハルトマンは、バルクホルンの手を取って椅子に座らせると、自分の椅子を、ジークフリード線を越えてバルクホルンの隣まで引きずってきて、ちょこんと座った。
「美味しいね、トゥルーデ」
「そうだな、フラウ」

 なぜ、あんなことを言い出したのか、何を考えているのか、もうどうでも良くなってきた。バルクホルンにとって、やはりハルトマンは理解できない性格だった。多分、これからも理解は出来ないだろう。今はそれで良いような気がした。ハルトマンのことが理解出来なくても、目の前にいるハルトマンに対する想いは昔から変わっていない。それで良いのだ。
 ふと、窓際の方に視線を移すと、仕舞い忘れていた写真が、花瓶に寄りかかるように立てかけてあった。あのバウアーは、多分、ハルトマンのことなのだろう。バルクホルンは、多くのカールスラント魔女達から、ハルトマンのことを任されているような、そんな気持ちになった。
 フーベルタ・フォン・ボニン、エディータ・ロスマン、ヴァルトルート・クルピンスキー……他にも本当に多くの魔女達が、エーリカ・ハルトマンの事を大切に想っている。勿論、ゲルトルート・バルクホルンも、その一人だった。

――お前を、一人前のフラウにするのは、私のもう一つの夢なのだ

 また二人の間を優しい時間が過ぎていった。 


〈了〉

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