2018-11

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手紙〈I〉

アドリア海に面した501JFW基地周辺は、今日も快晴だった。海から吹いてくる潮風が、乾いた空気と混じり合ってとても心地が好い。
 ロマーニャの天候は、曇天が多かったブリタニアに比べて空が高く、真っ青に澄んだ海は隊員達の心を穏やかにしてくれた。

 一封の封筒を持った宮藤芳佳は、万年筆で書かれた宛名をじぃっと見ながら、宿舎の廊下を歩いている。

――綺麗な字だなぁ……

 封筒に書かれた文字に見惚れつつ、目的の場所に到着するとドアをノックした。
「バルクホルンさん、いらっしゃいますかー?」
「お、宮藤か、入れ」
 部屋の窓際で佇んでいたバルクホルンは、手元の資料から目を離すと、ドアに向かって声を掛けた。すると、元気よくドアを開けて、宮藤がひょいと入って来た。
「あの、お手紙が届いていたので、お届けに上がりました!」
「おお、すまんな宮藤」
 バルクホルンは、そういいながら椅子から立ち上がると、笑顔で宮藤を迎えた。常にひたむきで元気よく雑務もこなしてくれる宮藤の姿は、好感以上の愛おしさを覚え、声色が自然と和らいでしまう。
「え、だれから?」
 物であふれた一角から、声と共に下着姿のハルトマンが躍り出てきた。今まで寝ていたとは思えない素早い動きで、宮藤にまとわりついてくる。
「あ、ハルトマンさんも居たんですか?!」
「おい、落ち着け、ハルトマン! とりあえず服を着んか!」
 宮藤の驚きの声とバルクホルンの小言を聞き流して、封筒に目をやった。
「あー、ムッティからだ! ねえ、みやふじぃ、私にはなかったの?」
「えっと、今回の分にはありませんでしたよ」
「おまえな、ちゃんとこちらからも手紙を書いているのか?」
「え……、あー……、で、何て書いてあるの?」
「全く……、どれどれ、ちょっと待て」
「あの、ムッティさんって、どなたなんですか?」
 今まで聴いたことがない名前だな、と思った宮藤は、好奇心で二人にたずねた。
「ああ、ムッティってのは、一部の若い魔女達が彼女をそう呼んで慕っているんだよ。カールスラント語で、母親という意味だな。本名はフーベルタ・フォン・ボニン。ハルトマンと私は同じ部隊にいて、色々世話になったんだよ」
 ハルトマンは、手紙が気になって宮藤の質問を完全にスルーしているので、小物入れからペーパーナイフを取り出しながら、バルクホルンが答えた。
「へえ……、お母さんみたいな人だったんですね。ミーナ中佐みたいな人なのかな……」
「みやふじにとって、ミーナはお母さんみたいなんだね!」
「あ、いえ、その、何となく、そんな感じかなぁって」
「ん、写真が入っているな」
 バルクホルンは、手紙と共に一枚の写真があるのを確認して手に取った。すかさずハルトマンがのぞき込む。
「ホントだ! みせて、みせてー。ん、なんだこりゃ?」
「これは、シャッハ(チェス)のバウアー(ポーン)だな。フフ、彼女らしい」
 写真を見て微笑むと、バルクホルンは手紙の方に目を移した。右手にまとわりついてウズウズしているハルトマンを感じつつ、懐かしい文字を追っていく。彼女の文章は余計な修飾もなく小気味良いリズムがあるので、とても読みやすい。バルクホルンは、ボニンの飾らない性格を思い出して懐かしくなった。
「ねえねえ、私の事、何か書いてあった?」
「ああ、ほら、読んでいいぞ」
 一通り目を通してから、手紙をハルトマンに渡した。私信ではあったが、特に見せても問題は無さそうだったので、写真と共に手渡すことにした。ハルトマンは、大事そうに手紙と写真を受け取って、くるっと一回転している。よっぽど待ち遠しかったんだろうな、そう思うと、見ている宮藤も嬉しい気分になって来た。

――こんな二人を見るなんて、なんか珍しいな
――ハルトマンさんだけじゃなくて、バルクホルンさんもウキウキしているみたい
――二人とも、戦場では人類最強のウルトラエースって言われる位すごい人達なのに

 そんなことを思っていたが、ふと我に返って、ポンと手を叩いた。
「あ、そうだ、お二人にお茶をお持ちしますね、えっとバルクホルンさんは珈琲で良いですか? ハルトマンさんは?」
「お、すまないな、宮藤、よろしく頼む」
「え、あー、じゃあ何かお菓子!」
「……、お菓子、じゃないだろう、私と同じ物でいい、ハルトマンの分には牛乳と砂糖を多めに入れてやってくれ」
「分かりました-、ちょっと待ってて下さいね」

*     *     *

 宮藤が部屋を出ると、二人とも窓際の席に座った。ハルトマンは、踊るような手つきで手紙を一枚一枚捲っていく。最後まで読み終えると、ご機嫌な顔でバルクホルンを見つめた。
「ムッティ、元気そうだね。先生や伯爵も、みんな、私のこと気にしてくれてるみたい♪」
「ああ。ボニンは、502の連中とも連絡を取っているみたいだな」
「伯爵や、みんなと会いたいな~」
「うむ。とはいえ、今はそうもいかん。そうだ、時にはお前も手紙を書け。きっと喜ぶぞ?」
「うーん、そーだねぇ。時々書こうかなって思うんだけどさ、何を書いて良いか分からないんだよ」
「何でもいいんだ。近況だけでもいいんだからな」
「そっか-、じゃあさ、今度書くからトゥルーデも手伝ってよ」
「フゥ……、構わんが、ちゃんと自分で書くんだぞ」
「ハーイ」
 ハルトマンは、読み終わった手紙をバルクホルンに返して、机にふにっと突っ伏した。バルクホルンは、手紙を封筒に入れて、使ったペーパーナイフを所定の場所に片付けて座り直す。
 静かな時間が、二人の間を通り過ぎていった。
 二人とも無言だったけれど、とても優しい空気に包まれているような気がした。
 バルクホルンは、窓に映る真っ青な空を見上げる。こんな時間を過ごすのは久しぶりのような気がした。
 すると、ハルトマンがゆっくりと顔を上げて、不意に口元に意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ねえトゥルーデ、私のこと好き?」
「な、なななな何だ、突然?!」
 バルクホルンは、思わずあらぬ声を上げて立ち上がってしまった。全く、静寂をかき乱すのは、やっぱり目の前にいる黒い悪魔と呼ばれる天使のような少女だ。
「別に変な意味じゃないよー、ただちょっと聞いて見たくなっただけ」
「何をバカな! そ、そんなことは別に口にすることじゃないだろう!」
 思わず声のトーンが上がってしまう。
「私はトゥルーデのこと好きなのになぁ、ねえねえ、どうなのさー」
 こうなると目の前の少女の追求を逃れるのは、縦深防御を突破するよりも難しいように思えてしまう。とりあえず、立ったのをいいことに部屋を出ることにした。
「あ、ねえねえ、何処行くの~?」
「ちょっと、手洗いだ」
 三十六計逃げるにしかず。一時撤退を決意したバルクホルンは、ぎこちない足取りで部屋を出た。
「あぁ、逃げられた~」
 窓際の席でほおづえを付きながら、すぐ戻ってくるだろうルームメイトを待つことにした。なぜなら、もうすぐバルクホルンのお気に入りの宮藤が、珈琲を持ってきてくれる。バルクホルンが、それを全く無視し続けることなど出来るハズがない。
「ホント、トゥルーデは分かりやすいなぁ、ニャハハ」

〈つづく〉

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