2018-11

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思い出

ロマーニャ公国の東岸、アドリア海に面した501JFW基地の執務室で、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は、三名の扶桑人の取材を受けていた。
 折しも扶桑皇国では戦艦大和が欧洲へ向けて出航する時期であり、欧洲戦線の特集が組まれることになっていた。そこで、ロマーニャ支局の局員がここ501JFW基地に来て、カールスラント撤退作戦に参加したミーナに時間を割いてもらうことになったのである。
 午前中の僅かな時間ではあったが、多忙を極める前線司令官への取材だったので、局員達は一時も無駄にしないよう、熱心に彼女の話を書き取っていった。

「ヴィルケ中佐、お忙しい中、お時間を割いて頂き感謝致します。早速記事を起こして、中佐の武勲を我が国の人々にも広く伝えたく存じます。では、我々は坂本少佐に挨拶をした後、帰途に就きます」
「いえ。お疲れさまでした。少しでもお役に立てれば幸いです」

 彼らが基地を去ると間もなく、坂本美緒が執務室のドアを叩いた。
「ミーナ……その、済まなかったな」
「どうしたの、美緒」
「いや、その、カールスラント撤退は華々しいと言えるようなものではなかっただろう。辛いことを思い出させてしまったんじゃないかと思ってな」
「いいのよ、こういう広報活動も仕事の内。それに、美緒が色々頑張ってくれたこと、ちゃんと知ってるわよ?」
「……ん?」
「今回の取材の話、最初は無理だってはねのけようとしてくれたらしいじゃない? で、それがかなわないと分かってから、せめてもって、トゥルーデとエーリカへの取材を差し止めたんでしょう?」
「ああ、その、なんというか……」
「こういう交渉事は、あまり得意じゃない貴女が頑張ってくれたことを想像すると……ウフフ」
「ハッハッハ、ミーナは何でもお見通しだな」
「それに、エーリカはともかく、トゥルーデにはまだ、ね。二人を守ってくれてありがとう」
「あ、うむ、その、なんだな、謝罪に来たのに、礼を言われるとは、なんとも……」
「後ね、辛い思い出ばかりだけれど、本当に些細なことで楽しいこともあったのよ。もし時間があるなら、ちょっと聞いていかない?」

*     *     *

 あれは、そうアラスにたどり着いた時だったと思うわ。当時、あそこで少しでもネウロイの足止めをしなくちゃ、一気にガリアが囲まれてしまうかもしれないって時ね……
あの時は、まだトゥルーデが妹さんの件で肩を落としていてね。戦闘に関する事以外は、ほとんど口を開かなくなってしまっていたの。

「あら、もうこんな時間。トゥルーデ、悪いけれどエーリカを呼んできてくれる?」
「えっ……ん、私が、か?」
「ええ、そうよ」
「いつものことだろう。放って置いてもそのうち来るんじゃないか?」
「あら、規律正しいカールスラント軍人としては、問題なんじゃない? それに、今日はこれから各隊の連携について確認する為の話し合いがあるわ。第2飛行隊だけ遅れるわけにはいかないでしょ?」
「……全くしょうがないヤツだ……。分かった、行ってこよう」

「おい、ハルトマン少尉。朝だ、起床の時間はとっくに過ぎているぞ」
「……」
「おい、ハルトマン、聞こえているか? 入るぞ」
「んー……、あ、あれ、トゥルーデ?」
「寝ぼけているな、ハルトマン。これから他の隊との連携の件で軍議がある。当然お前も参加だ。さっさと起きて準備をしろ」

 結局、二人とも話し合いの時間には遅刻しちゃったんだけれどね……

「ん、フラウは、まあしょうがないとしても、バルクホルンまで遅刻だなんて珍しいな」
「フフッ。多分、今頃そのエーリカのテントで、彼女を起こしていると思うわ」
「そうなのか? 戦闘以外では、あまり他人に干渉しなかったバルクホルンが……」
「元々、トゥルーデは面倒見が良くて優しいのよ? 特に年下の子の面倒を見るのが好きみたいなの」
「へぇ意外だな……。バルクホルンは空の上だけじゃなく地上でも面倒見が好いわけだ。とはいえ、戦闘以外で余り負担を与えちゃいけないんじゃないか?」
「ええ、でも彼女の場合はその方が好いの。こういう事で少しでも戦闘を考えない時間を作ってあげないと、彼女、事切れてしまいそうで……」

 それから……トゥルーデったら、もうエーリカのことが放っておけなくなっちゃみたいなのよ。

「おい、ハルトマン、制服をちゃんと着ろ、襟が曲がっているじゃないか!」
「おい、ハルトマン、テントの中位綺麗にしておけ!」
「おい、ハルトマン、食事はちゃんと摂れ、口に合わなくてもエネルギー補給は重要だ!」
「おい、ハルトマン、どこにいる!」
「トゥルーデ、少しは加減してあげて」
「いや、あいつはカールスラント軍人としての自覚に欠けているから、つい、な」

 寝ても覚めても、ハルトマン、ハルトマンって……フフフ、今だったら不思議じゃないんだけれど。あの時は、彼女のあまりの変貌ぶりにちょっと驚いてしまって。エーリカの方が参ってしまっているんじゃないかって心配になったのよ。

「エーリカ、大丈夫? トゥルーデは貴女の事を思って言っているのよ」
「ヘーキヘーキ。トゥルーデ、とっても元気そうだし、それに今の方がトゥルーデっぽくて好いと思うよ。ねえねえ、それよりミーナ、今日の夕飯ってやっぱりリベリオンの缶詰かな?」
「いいえ、今日は貴女の好きなカルトッフェルよ、蒸しただけのものになるだろうけど」
「ウヮーイ! ヤッター!」

 フフフ、どうやら私の取り越し苦労だったみたい。それどころか、こんなこともあったのよ。

「寝坊は相変わらずみたいだな、フラウ」
「あー、おはようございまーす」
「そうだ、丁度好い、話したいことがあるんだが、いいかい?」
「はい」
「今度、新しい部隊を結成しようと思っているんだが、どうだ、お前も入ってくれないか?」
「へー! えっと、トゥルーデ達も入隊するんですか?」
「いや、そちらはそちらで部隊の再編を行うことになるだろう。彼女達はもう一部隊を率いる力量を持っているからな」
「そっか……うーん」
「ん、どうした、乗り気じゃないみたいだな?」
「あ、いえ、そうじゃないんですけど……」
「基本的には各隊員に大きな裁量権を与えて、効率的に戦えるように……つまり、伸び伸びと戦える環境を整えるつもりだぞ?」
「……うーん、行っても良いんだけど……あの、それって命令ですか?」
「ハハハ、いや、そうじゃない、戦友としてのスカウトだ」
「きっと、中佐の部隊なら、沢山勉強にもなるし、本当に伸び伸びと出来ると思います。でも……止めておきます。お誘い、ありがとうございます!」
「ハハハ、バルクホルンは本当に部下から慕われているんだな、ちょっと妬けるぞ」
「エヘヘ」

*     *     *

「ほう、そんなことがあったのか」
「ええ、あのガラント少将の誘いを、満面の笑みで断ったんだから。見ていてこっちが驚いてしまったわ」
「ハッハッハ、ハルトマンらしいな」
「それに……今思えばだけれど、エーリカはトゥルーデが身の回りのことを注意するようになってから余計にルーズになったような……」
「ん? それじゃあ逆効果じゃないか。ハルトマンのやつ、バルクホルンに甘えてしまっているんじゃないのか?」
「いいえ、もしかしたら、なんだけど……フフ、いや、自分ながら考え過ぎね……何でもないわ」
「?? よく分からんが、まあ、あの二人は互いを必要としている、という感じはするな。後は、うむ、そうだな、やはりそうやって仲間のことを丁寧に見ているミーナに感心するぞ。さすがミーナだ。さて、楽しい話をありがとう、ではそろそろ失礼する」
「もう、美緒ったら」

 坂本美緒が退出すると、ミーナは伸びをして、机上の書類に目をやった。間もなく、坂本が宮藤芳佳を呼ぶ声が聞こえて来る。基地にまた日常が戻ったような気がして、ミーナは自然と微笑んだ。


<了>

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